「好きです、付き合ってください!」
もうその類の台詞は耳にたこができるほど何度も耳にしていて、断る柴崎も慣れたものだ。
「ありがとう」
でも、と続ける。少し申し訳なさそうに軽く頭を下げた。
「ごめんなさい」
それから、相手を見て臨機応変の内容を断る理由として添える。
通り一遍の断り文句は、相手によっては逆上されたり、はたまたしつこく迫り続けられたりする要因にもなりかねないから、相手によって変えることにしている。
今回は、ダメ元で!といった雰囲気を漂わせていた相手だから、思う相手がいることを理由に断ることにした。
「残念だけれど、もうお付き合いしている人がいるんです」
相手はがっかりした顔をしたけれど、早々に諦めがついたようだった。
「・・・・・・・わかりました。すいませんでした!」
柴崎は、ぺこりと頭を下げて駆け去って行く青年の後姿を少し困惑交じりの微笑で見送って。
背後へ言葉を投げかけた。
「で?出刃亀の感想はどうよ?」
「出刃亀ってなあ・・・」
疲れた顔で生垣を掻き分け、出てきたのは同期の手塚だ。
「俺だって別に覗き見しようと思ってここにいたわけじゃないぞ」
「わーかってるわよ。買出しにでも行ってたんでしょ」
その帰りにばったりとこのシーンに出くわして、出るに出れない状況になってしまったというわけだ。
そもそも、誰だってこんな暑いところにじっと潜んでいるなど願い下げのはずだ。
そろそろ夕方とはいえ、日が長くなっている昨今、いまだ太陽は沈みきっていない。西日は意外に肌を焼く。
手塚は、運悪く――柴崎の告白「され」現場にかち合った上、こんな場所からじっとして動けなかったのだ。さぞ居心地が悪かったことだろう。
柴崎は手塚の手に吊り下げられたビニール袋へと視線を向けた。
コンビニのロゴ入りのそれ。いくつかの固形物の姿がうっすらとビニール越しに確認できた。
「で?何、買ったの?」
促せば、アイスとかだけど、としぶしぶ答える声がした。
「何時からそこにいたの?」
「お前にアイツが声をかけたところから」
「・・・・・・10分は経っているわね。溶けてるんじゃない?」
あの青年にはすみません、と後ろから声をかけられた。
振り向いて、何か?と首をかしげると相手は言いにくいことを言い出そうとするかのように何度か口を開いては閉じ、開いては閉じを繰り返す。
少しいらいらしてきてしまったのはきっと、ここが暑いからという理由だけじゃない。
――言いたいことがあるなら早くいったらどう?
声をかけてきたものの、なかなか用件を言い出さない相手にイライラさせられたのだ。
漸く言い出したかと思えば、告白。
もっともこれは声をかけてきたときの様子から、ある程度予想の範囲内だった。
挙動不審。そのくせ妙に熱心にこちらをうかがう気配。
ああ、これはもしかして・・・・・・・。
答えはビンゴだった。あたったけれど嬉しくない。
告白はするほうも大変な気力がいると思うが、断るほうも気力がいるものなのだ。
只でさえ暑さが増してきた昨今。ぐったりと床に沈みこみたいのを抑えて、なんとかお断りの文句を口からひねり出した。
いくら慣れていると言っても、毎度毎度後味が悪いことこの上ない。
どうしてあたしなの?顔がいいから?ちょっと優しくされたから?
顔がいいのは柴崎が頑張ったおかげではなく両親の功績だし、優しくしたのは図書館利用者だからだ。
――勘違いしないで。あたしはそんなに優しくない。
あの青年が声をかけてきたときに、ああ面倒くさいって思ってしまったくらいだ。
一体、この中の何人が「あたしの本当」を見て声をかけてきているの?
勝手なイメージを投影して、そこから外れたあたしなんて要らないくせに。
そんな皮肉な考えも沸いてしまう。我ながらひねくれていて本当に可愛くない。
「・・・・・・お前さ」
「何よ、アイスとけてたって弁償はしないわよ?」
「お前、落ち込んでるだろう、実は」
「・・・・・・どこからそんな考えが出てきたのよ」
「どこって・・・みりゃ分かるだろ」
何年一緒にいると思ってるんだよ。
手塚は仏頂面で「とりあえず寮に戻るぞ」と柴崎の手首をつかんで引いた。
「ちょ、ちょっと!」
「こんな日陰も無いところで立ち話もなんだろ。お前が倒れたら困る」
一瞬どきりとはねた心臓も、
「笠原とかが煩いだろ」の言葉で気のせいだったことにする。
「あたしだってあんたらみたいな戦闘職ではないけど、基本的な訓練はしてるのよ。そうそう倒れないわよ」
「まぁ、気をつけるに越したことはないだろ――共同スペースのベンチは人目があるし。あんま個人的な話には向いてないか。・・・・・・お前、夕飯食ってないよな?」
「まだ、だけど」
「外で食いにいかないか?お前は多分何もなかった振りして我慢するんだろ?」
「誰が我慢してるのよ」
「そういって強がるのはお前しかいないだろ。笠原ほどは無理でも、たまには素直になるのもいいんじゃないか?落ち込んでるならそのまま落ち込んだ顔してろ。・・・・・・あれはお前が悪いんじゃない。誰が悪いというわけでもないだろ。だからあんまり気にするなよ」
「何をよ」
「断ったこと、ちょっと気にしてるんだろ。浮上する手伝いくらいはしてやる」
話聞いてやるよ。愚痴くらいなら。
余り聞き上手じゃないけどと、とぶっきらぼうな声が続けた。
コンビニの袋を持っていないほうの手が、ぽんと柴崎の頭の上に載せられる。
「とりあえず、お礼はこのアイスの成れの果ての処分方法を一緒に考えるのを手伝ってくれればいいから」
苦しい理由。難しい顔で横を向いた手塚から不器用なりの慰めを感じ取って、柴崎は思い切り噴出した。