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恋に限りなく近い何か
07.7つの願い事

「願い事っていうと、どんなことを・・・?」

 彼の言葉を訊いて、すぐさま私が婚約者殿(現在進行形)にたずねたことを、誰が責められるだろうか。いやない。
 きっと、誰もがとるであろう。一番簡単な手段だからだ。
 だって私は全知全能の神ではない。目の前にいる人間が何を考えているかなんて知るはずもない。
 願い事をかなえて欲しい、と言われても、肝心の願い事を知らなければ叶えようがない。
 だから訊いた。
 願いの内容を知らなければ、叶えられるかどうかも算段をつけられない。
 世界征服、とかでなければいいのだが。
 流石にそれはちょっと、いやかなり無理だろう――それとも、可能なのだろうか。
 手を尽くせば・・・いやいや、やはり無理だろう。
 いくら大企業の跡取りであっても、そんな願い事は「犯罪に触れない範囲で」は叶えられないはずだ。
 つまり、もう少し現実的な願い事のはずである。
 一体、なんと言われるのだろう、と好奇心とわずかな不安に胸を高鳴らせながら返事を待った。

 ・・・・・・のだが。
「――教えません」
 にこやかに言い切られるとはおもわなんだ。
 え、なんていいました、アナタ。
 思わず睫を瞬かせてみる。
「え、ええと?」
 聞き違いか、と思い重ねて尋ねてみる。今度は慎重に。心持ち少し大きめの声で。
「願い事は?」
「だから、教えませんと申し上げました」
 私の問いをにこやかさ3割り増しの笑顔で彼がすっぱりと切った。

(輝いている、輝いているよ!)

 きっと、そのまま歯磨き粉のCMに出れるだろう。
 そうしたら間違いなく私はその歯磨き粉を買ってしまうに違いない。
 私だけではない、きっと巷のお嬢さんも間違いなく歯磨き粉売り場へ駆け出していってしまうはずだ。
 そんな、きらきらと神々しいまでの輝きを貼り付けた笑顔で、彼は回答を拒否してくれた。
 一瞬、笑顔に飲まれた。
 彼の笑顔はそれほどまでに鉄壁だ。それ以上問いを重ねるのは愚か者の所業なのかもしれない。
 しかし、私は「この愚民!」と鞭片手に罵られるのを覚悟で(勿論これはあくまでイメージであって、彼にそんな趣味はない。はずだ)、勇気を出して申し出てみることにした。
「すると、どうすれば宋矢君の願いを叶えられるかわからないんだけれど」
「ご想像下さい」
 すかさず彼が言う。
 ご想像というと、
「つまり、宋矢君の願いを叶える為には、まずどんな願い事をしたのか想像しないといけないってこと?」
「そうです」
 鉄壁の笑顔の前で、私はぽかんと間抜け面を晒すハメになった。
 え、どうしろっていうの。
「別に人に聞いてもいいですよ。そうですね、一日一回までなら俺にも聞いてもいいことにしましょう。当たっていれば当たっていると嘘をつかずに認めましょう」
 一日一回までなら。本当に御伽噺みたいなノリだ。
「わ、わからなければ?」
「願い事を叶えてもらえないなら、申し訳ありませんがどんな手段をとっても婚約破棄を認められませんね」
「え、えーと。浮気するとか?」
 それならば、婚約不履行の立派な手段になるはずだが。
「菫紀さんがしても仕方ないでしょう。それは俺が婚約不履行を申し立てる理由になるかもしれませんが」
「相手のことを愛していてどうしようもないとか!子供ができちゃったとか!」
 そんな理由の婚約破棄は外聞が悪いにも程がある。
 婚約に至った理由を鑑みても、そんな醜聞は親の為にも避けたいところだったが、こうなるとどうすれば婚約破棄できるだろうかという所にしか頭が行かなかった。
 そもそも、彼を解放してあげたくて婚約破棄を申し出たのだから、冷静な頭で考えれば彼が望まないなら婚約破棄する必要もないという結論に至ったのだろうが、そのときの私は少し、テンパっていたのだろう。
 無茶苦茶な理由をあげていた。
「そう、なんですか?」
 何故だか笑顔なのに冷たい冷気が漂ってくる。
「いえ、現在はいないけれど」
「そうですか、良かったです――相手の為に」
 彼はどうしても婚約破棄したくないらしい。
 そんなに願い事が大事なのか。
 あれだけずっと傍にいたのに、彼が大事に願い事を暖めていたのを知らなかったのがなんだか寂しかった。

「せめて、ヒントをくれる?」

 少しだけしょんぼりした気持ちで、婚約者殿に尋ねると、彼は表情を少し緩めた。
「そうですね、それくらいならいいでしょう」
「ありがとう。それで?」
 ヒントは、と重ねてたずねる。今度は応えが返った。

「七歳の男の子が考えるような願い事ですよ」

 七歳の男の子がする願い事か。
「――やっぱり、世界征服っ!?」
 すっとんきょうな声で私が聞くと、彼は顔を強張らせた。
 もしかして、ビンゴなのか。
 どうすればそんな願い事叶えられるだろう。
 目指せ独裁者の道の険しさにうんうん唸っていると、少し遅れて彼はため息をついた。

「どうして、そんな答えが返ってくるんですか・・・」

 どうやら呆れてしまったらしい。もう一度ため息をつかれて、私は泣きそうになった。
 

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